企業のマーケティングを成功させるには様々な観点から分析をし、計画性をもって行動していくことが必要です。
マーケティング職に就いて間もない方は、マーケティング分析の重要性や具体的な手法を知らない場合も多いはずです。
この記事では、マーケティング分析の概要から具体的な手法・フレームワークまでを紹介していきます。
マーケティングの経験が浅い方は、ぜひ参考にしてみてください。
1. マーケティング分析とは?
マーケティング分析とは自社・他社を分析し、効果の出るマーケティング施策を考えることです。
例えば次のような内容を分析することも、マーケティング分析の一環になります。
- 参入しようとしている業界の顧客、競合はどんな感じか?
- 自社にとっての脅威はどのようなものがあるか?
- 自社の商品の強み、弱みはなにか?
このような内容を分析し、利益を最大化させていくことがマーケティング分析の役割です。
マーケティング分析を進めるうえで、自社・競合・業界に関するデータが必要になります。そのため精度の高いマーケティング分析をするには、正確なデータを必要な分だけ集めることが重要になります。
1-1. マーケティング分析の重要性
マーケティング分析をしない場合、ただ闇雲にマーケティング活動を進めていくことになります。
手探りの状態でマーケティング活動を進めることは、「顧客に受け入れてもらえるのか?」「思うような成果が出るのか?」といったことがわからない状態です。そのため実際に行動を起こしても成果につながらなかったり、企業のリソースを無駄にするだけになってしまうこともあります。
対してマーケティング分析をすることで、あらゆる情報が明確になります。
これらの明確になった情報をもとに戦略を立てることで、確度の高い戦略を考えたり成果を出せる確率を上げられます。
これらのことから、マーケティングで成果を出したい場合には戦略立案の段階で様々な分析をすることが重要です。
2. マーケティング分析の手法・フレームワーク
マーケティング分析ではあらゆることを分析していくのですが、その中でもフレームワークを使う機会も多いです。
この記事では、マーケティング分析に役立つ代表的なフレームワークを役割別に紹介していきます。
2-1. 思考整理のフレームワーク
マーケティング分析をするときに限らず、自分の考えや意見を整理したいときもあるはずです。
そんなときに使える思考整理のフレームワークを2つ紹介していきます。
・ロジックツリー
ロジックツリーとはあることがらを下層に向けて細分化していき、抽象的なものを具体的にしていくためのフレームワークです。
役割としては、主に問題の解決策を考える際や目標達成のためのロードマップを考えるときに使われます。
ロジックツリーの使い方としては、まず最初に主題となることがらをトップに設定します。その後主題を下層に向けて分解していき、最終的には分解できない単位や自分が納得するまで細分化を続けていく感じです。
ロジックツリーを使えば達成したいマーケティングの目標も行動レベルまで細分化できますので、何をすれば目標を達成できるのかが明確に見えるようになります。
・MECE
MECEとは次の頭文字を取った言葉でして、「漏れなく、ダブりなく」を意味します。
- Mutually(お互いに)
- Exclusive(重複せず)
- Collectively(全体に)
- Exhaustive(漏れがない)
MECEはフレームワークというよりは考え方のようなもので、先ほど紹介したロジックツリーやロジカルシンキングを使うときに合わせて意識していきます。
MECEを意識してロジックツリーを使うことで、計画に漏れがなくなり確度の高い戦略を立てられるようになります。
ロジックツリーやロジカルシンキングを使う場合には、MECEを意識してみましょう。
2-2. 戦略策定のフレームワーク
続いて、マーケティングの戦略を考えるときに使えるフレームワークを7つ紹介していきます。
・3C分析
3C分析とは次の3つの「C」を分析し、マーケティングに関する情報を整理することを目的としたフレームワークです。
- 自社(Company)
- 競合(Competitor)
- 顧客(Customer)
例えば「自社」を例にした場合、「人的リソース、資金力、技術力はどの程度あるのか?」「商品の強みはなんなのか?」などといった自社に関する内容を分析していきます。
そして自社の情報を整理し、マーケティング施策の企画立案に役立てていきます。
3C分析の分析対象は比較的抽象的ですので、他のフレームワークと組み合わせて使うことが多いです。
自社を分析するときに「SWOT分析」を使ったり、顧客を分析するときに「PEST分析」や「5フォース分析」を使うといった感じです。
3C分析と他のフレームワークを使うことで、マーケティングに関わる要素を具体的に分析できるようになります。
・PEST分析
PEST分析は次の4項目を分析し、外部環境を把握するためのフレームワークです。
- Politics(政治)
- Economy(経済)
- Society(社会)
- Technology(技術)
例として、2021年に飲食店を経営していた場合を見てみましょう。
2021年はコロナウイルスが猛威を振るっていましたので、「社会」の項目にはコロナウイルスによる売り上げダウンが入ります。そして事業者に対する給付金制度がありましたので、「政治」の項目に給付金の受給が入るといった感じです。
このように自社を取り巻く外部環境を整理していくことによって、外部環境から見たマーケティング施策を考えられるようになります。
マクロな視点からもマーケティング施策を考えたい場合には、PEST分析が有効です。
・5フォース分析
5フォース分析とは5つのフォース(脅威)を分析し、業界に対する競争要因を明確にすることを目的としたフレームワークです。
- 業界内での競合
- 業界への新規参入者
- 代替品の存在
- 買い手(顧客)の交渉力
- 売り手(サプライヤー)の交渉力
例えば「本の小売店」を分析した場合には、業界内での競争相手は「ジュンク堂書店」や「紀伊國屋書店」などがあげられます。そして代替品の存在としては、電子書籍の普及が当てはまります。
事業を始める前に5フォース分析をすることで、業界に参入したときにどのようなことが脅威になるのかを事前に把握できます。
これから起こりうる脅威を把握したうえで事業を開始することによって、計画的に脅威を回避したマーケティング施策を進められます。
・SWOT分析
SWOT分析は下記の4項目を分析し、これからの課題やビジネスチャンスを見つけるためのフレームワークです。
- Strength(強み)
- Weakness(弱み)
- Opportunity(機会)
- Threat(脅威)
具体的な使い方としては「内部環境」と「外部環境」、「プラス要因」と「マイナス要因」を軸に下記のような図を用意します。そして分析したい4項目に情報を当てはめていきます。
プラス要因 | マイナス要因 | |
内部環境 | 強み | 弱み |
外部環境 | 機会 | 脅威 |
上記のように図を使って情報を整理することで、自社の強みやこれから脅威になりそうなことを客観的に把握できるようになります。
またSWOT分析では、分析した情報を「強み×機会」や「弱み×脅威」のようにかけ合わせることが可能です。
それぞれの項目をかけ合わせることで、分析した情報を具体的な戦略に落とし込みやすくなります。
・STP分析
STP分析とは下記の頭文字を取った分析方法で、市場の中でどのような顧客に商品を販売していくのかを考えるフレームワークです。
- Segmentation(セグメンテーション)
- Targeting(ターゲティング)
- Positioning(ポジショニング)
実際にSTP分析を使う手順を紹介していきます。
STP分析ではまずはじめにデモグラフィックデータやジオグラフィックデータなどをもとに、自社が狙うべきセグメンテーションを定めていきます。
その後先ほど設定したセグメンテーションの中から、どのような顧客に商品を販売していくのかターゲティングしていきます。
ターゲティングの段階で競合の数は減りますが、同じターゲットを狙っている競合他社もまだいるはずです。なのでこれらの競合他社と差別化をするために、自社のポジショニングを明確にします。
上記のように「S→T→P」の順番でターゲットを明確にしていくことで、市場の中でも自社の優位性を確立できるようになります。
・4P分析
4P分析とは下記の4項目を分析し、商品やサービスの具体的なマーケティング手法を定めていくためのフレームワークです。
- Product(商品)
- Price(価格)
- Place(流通)
- Promotion(販売促進)
4P分析は商品の具体的な内容を決めていくフェーズですので、外部環境や内部環境といったマーケティング分析を事前に行っているはずです。
それらの分析したデータをもとに、自社の利益を最大化できる商品や価格を設定していきます。
4P分析を使って商品の概要を決めていくことで、マーケティングに必要な基礎的な内容を漏れなく設定できます。
・バリューチェーン
バリューチェーンは商品の製造から販売までを価値が生まれるタイミングごとに区分けし、それぞれのパートで価値やコストがどのような状態になっているのかを視覚化するためのフレームワークです。
例えば「製造業」でバリューチェーン分析をした場合、商品の製造から販売までは次のように区分けできます。
「仕入れ→製造→物流→販売→サービス」
上記のように区分けした後にそれぞれのパートごとに特徴やコストを分析することで、各パートの良い点や悪い点が客観的に見えてくるようになります。
マーケティングは商品の製造から販売までを一連の流れで進めていきますので、どこを改善すればいいのかなかなか見つけづらいです。
バリューチェーン分析をすることでマーケティング活動を細かく確認していくことができますので、「より価値を生み出すにはどこを改善すればいいのか?」「コストを減らせる部分はどこか?」といったことが明確に見つけられるようになります。
2-3. 改善のフレームワーク
常にマーケティングで成果を出していくには、悪い点を改善していくことが重要です。
改善に役立つフレームワークもありますので、合わせて紹介していきます。
・PDCAサイクル
PDCAサイクルとは下記の頭文字を取ったもので、継続的に改善を繰り返していくためのフレームワークです。
- Plan(計画)
- Do(実行)
- Check(評価)
- Action(改善)
「集客」を例に、PDCAサイクルを回してみましょう。
まずはじめに、自社にとってもっとも効果が高いと考えられる集客方法で計画(Plan)を立てます。
その後先ほど立てた計画を実行(Do)し、実行した後に結果を評価(Check)します。
理想的な集客ができなかった場合には、改善(Action)をしていきます。
改善方法についてもPDCAの先頭に戻り、計画を立てて、実行して、評価をしていきます。
このようにPDCAサイクルを常に回し続けることによって、改善点がなくなるまで改善を繰り返すことが可能です。
マーケティングにおいて最初から100%成功が確約されていることはありませんので、PDCAサイクルを回しながら徐々に成功につなげていく考え方が重要です。
2-4. 消費者行動の心理
マーケティングでは、顧客に商品を購入してもらうことが最終的な目標です。そのため消費者の行動心理を把握しておくことで、マーケティング分析を有利に進められるようになります。
マーケティング分析とは直接的な関係はありませんが、代表的な消費者の行動心理も紹介していきます。
・AIDMAの法則
AIDMAの法則とは下記の頭文字を取ったもので、顧客が商品を購入するまでの流れを段階的に示したものです。
- Attention(認知)
- Interest(興味)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(行動)
AIDMAの法則では顧客が商品を購入するときは、まず最初に商品を認知し、商品に興味をもち、欲しい欲求に駆られ、記憶に残った後に、購入するという流れで行動すると考えられています。
マーケティング施策を考えるうえでAIDMAのそれぞれの項目をどのように満たすのかを考えることで、商品購入までを滞りなくつなげられるようになります。
・マーケティングファネル
マーケティングファネルも、顧客が商品を購入するまでの流れを下記のように段階的に示したものです。
- 認知
- 興味・関心
- 比較・検討
- 購入
ファネルには「漏斗」という意味があり、顧客が徐々に絞られていく様子が漏斗に似ていることからマーケティングファネルという言葉が使われるようになりました。
マーケティングファネルもAIDMAの法則と同様に、商品購入までの流れを示したものです。そのためマーケティングファネルを意識しながらマーケティング活動を進めることで、顧客を商品の購入までつなげられるようになります。
3. 企業のマーケティング分析の事例
これまでにいくつかのマーケティング分析の手法・フレームワークを紹介してきましたが、実際に企業がマーケティング分析を取り入れているイメージは湧かないはずです。
これから実際の企業を対象に筆者がマーケティング分析を進めていきますので、マーケティング分析の参考にしてみてください。
またこれから紹介するマーケティング分析はあくまで筆者が考えたものであり、取り上げている企業が公式的に発表しているものではありません。
あくまでマーケティング分析の一例として参考にしていただけると幸いです。
3-1. 任天堂
任天堂は、日本でもトップクラスのゲーム企業です。
任天堂が家庭用ゲーム機「Wii」を発売した当初を3C分析を用いると、次のような分析結果になります。
Customer(顧客) | ・簡単に操作できるゲーム機が少なく、ゲーム離れが進んでいた ・家族で交流する機会があまりなかった |
Company(自社) | ・歴史的にも知名度の高いキャラクターを保有 ・ポップなキャラクターが多く、家庭用のゲームでも受け入れられやすい |
Competitor(競合) | SONY、バンダイナムコ、スクウェア・エニックス |
上記の分析結果を見てみると、Wiiが爆発的にヒットした理由がわずかながら見えてくるのではないでしょうか。
また任天堂はWiiを皮切りに、現在は「Swich」でも家庭用ゲーム機のポジションを確立しています。
3-2. ユニクロ
ユニクロは、世界的にも人気の高いアパレルブランドです。
5フォース分析を用いると、様々な脅威が視覚的に確認できます。
業界内の競合 | しまむら、無印良品、GAP |
新規参入の脅威 | ECサイトの普及によって、店舗を持たないアパレルブランドが登場。この背景から、ある程度新規参入の脅威はあり ただしユニクロは世界的に知名度や信頼性が高いため、簡単に他社ブランドに顧客を取られる心配は少ない |
代替品の脅威 | ECサイト、ファッションレンタルサービス、ファッション系のサブスクリプションサービス |
売り手の交渉力 | ユニクロは世界規模で店舗を拡大しているため、仕入れの量が多く売り手と交渉がしやすい。この背景から、売り手の交渉力は低い |
買い手の交渉力 | 近年は低価格で高品質な衣服は、他のフランドでも購入できる。ユニクロでなくてはいけない理由がないため、顧客が他のブランドに流れてしまう可能性はある この背景から、買い手の交渉力は高い |
上記の分析結果を見ても分かる通り、低価格路線のアパレルブランドは時代的に厳しい状況になりつつあります。
ただしユニクロの場合は圧倒的なブランド力と品質の信頼性があることから、低価格ブランドの中でも優位性を保ち続けられていると考えられます。
3-3. スターバックス
スターバックスは、アメリカを発祥とした世界最大のコーヒーチェーン店です。
4P分析を用いると、次のようになります。
Product(商品) | ・質の高いコーヒー豆を使用 ・様々な種類の抽出方法から選択可能 ・季節によって新作商品を提供 ・国によって商品の種類、サイズ、接客が異なる |
Price(価格) | コーヒーにしてはやや高めな価格設定にし、高級なブランドイメージを確立 |
Place(流通) | 立地は高級なイメージを損なうことのない場所に絞っており、日本に初めて出店したときも「銀座」を選択 |
Promotion(広告) | スターバックスは昔から大規模な広告はせず、店頭の看板や口コミだけで商品のプロモーションをしている。この戦略から、ブランドイメージを損なうことなく商品の販売促進につなげている |
ご存知の通りスターバックスは少しリッチなコーヒーショップというイメージがあると思いますが、分析結果を見てもブランドイメージに沿った戦略が練られていることがわかります。
4. マーケティング分析でフレームワークを使う時の注意点
マーケティング分析をする際に、フレームワークを使う機会も多いはずです。
たしかにフレームワークは有名な経済学者などが経験から作っているものですので、マーケティングを進めるうえで情報を整理するのに役立ちます。
しかしフレームワークを使ってマーケティング分析をしたからといって、分析対象以外に失敗要因があったり予期せぬ出来事が起こることも十分考えられます。
フレームワークを使ってマーケティング分析をしたからといって100%成功するわけではありませんので、フレームワークに頼り過ぎず自社に必要な分析を臨機応変に取り入れていきましょう。
またフレームワークを使う際に、情報量が少なくなってしまうこともあるはずです。
情報量が少ない状態でフレームワークを使ってしまうと、分析結果が偏ってしまう可能性があります。
フレームワークを使ったがゆえにビジネスチャンスを逃してしまうこともありますので、マーケティング分析全般に言えることですが、分析をするときは十分な情報量を確保した状態で分析をしましょう。
5. まとめ
この記事では、マーケティング分析の概要から具体的な手法・フレームワークを紹介してきました。
マーケティングを進めるうえで、事前に分析をすることは非常に重要です。
マーケティング分析をせずに市場に参入することは、地図を持たずに旅をすることと同じです。
なにか新しい事業やプロジェクトを発足する場合には、この記事で紹介したマーケティング分析の手法を取り入れてみてください。