日本では、テレワークを導入している企業、働き方としてテレワークをしている従業員は少なく、まだ馴染みのない働き方です。
しかし、2020年に入って世界規模で感染拡大が続く「新型コロナウイルス」により、テレワークを急遽導入して、企業・従業員ともに始めているケースが増えています。
思いもよらない形ではありますが、政府が推奨している働き方ですし、命を守る行動として理解しておくのは良いことです。
今回は、テレワークのメリットを、企業と従業員のそれぞれの立場からご紹介していきます。
1.テレワークとは
厚生労働省のガイドラインによると、テレワークとは「ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」をいいます。(厚生労働省テレワーク総合ポータルサイト)
テレワークの「テレ」とは、英語の「Tele」であり、「遠い・離れた場所」という意味があり、これまでの「会社に出勤する」という働きかたを、「場所や環境を選ばない働き方」へと変えることで、時間を有効に活用することを可能にしてくれます。
政府がテレワークを推奨する大きな理由が2つあります。
・地方創生
・女性活躍
この2つから日本が抱える問題として、地方の過疎化、移住、女性の社会進出、介護、育児などが挙げられます。
働く人の環境を改善することは、日本の問題を解消する一つの方法でもあることが分かります。
そして今、新型コロナウイルスが猛威を振るっている現在(2020.5.7 )日本の企業ではどんどんテレワークを導入する企業が増えています。
2020年4月8日の日本商工会議所のテレワーク実施状況に関する統計によると、このような結果になっています。
出典 : 日本商工会議所
実施している企業は26.0%、実施検討中は19.5% 従業員規模が大きい企業ほど実施率が高いようです。
2.テレワークの勤務スタイル
実際にテレワークは、ほとんど会社に出勤しないケースと、月・週のうちの数日、もしくは時間単位でテレワークをするケースがあります。
どのように導入するかは企業によって違いますが、テレワークと呼ばれる勤務スタイルには、3つのタイプがあります。
それぞれの働き方についてご紹介します。
2-1.在宅勤務
自宅を就業場所として業務に従事する勤務スタイルです。
会議や外部との打ち合わせなど、出勤や外出が必要となる場合もありますが、終日を在宅で就業しているケースがほとんどです。
家事や育児、介護など、業務をこなしながら家のことができるのが特徴です。
2-2.モバイルワーク
ノートパソコン、タブレット、スマホなどモバイル端末の普及が進んだこと、外出先でのWi-Fi環境が整備されたことにより、自宅や会社以外の場所でも業務に従事することができる勤務スタイルです。
場所や施設に依存しないというのが特徴であり、1日の大半を社外で過ごす営業マンが活用しています。
2-3.施設利用
業務に従事できる施設をオフィスとして働くタイプをいいます。
利用する施設としては以下のような所があります。
・サテライトオフィス(企業が指定する場所)
・コワーキングスペース
・カフェ
これらは、コンセントやWi-Fi環境が整備されている場所が多くあるため、異業種との交流など幅広く活用が期待されています。
3.企業からみるテレワークのメリット
政府が推奨するテレワークですから、導入を検討している企業は多いはずです。
実際に、企業がテレワークを導入するメリットとして5つのことが挙げられます。
3-1.人材確保・離職防止
企業成長に欠かせないのが優秀な人材を確保することです。
そのため、多くの企業では労働環境の充実や報酬などで他企業との差別化を図り、人材確保に努めています。
しかし、どんなに環境や報酬で差別化をしても、家族の介護や育児を理由に離職者がいることも現実です。
離職理由が家庭の問題である場合には、テレワークでの業務を可能にすることで人材を確保することができ、離職を防ぐことができます。
これまでは、会社に出勤して働くことが前提でしたが、テレワークを活用することで出勤することは不要となります。そのため、地方にいながら就労が可能であり、優秀な人材を確保することができます。
3-2.効率の良い営業
在宅勤務とすることがテレワークではありません。
普段の業務を効率良くできるのが、テレワークの良さでもあります。
例えば、顧客先を回りをメインとする営業の仕事です。
営業の仕事は、社外での仕事が多いのが特徴ですが、1日の業務報告書を作成するために会社に戻らなくてはいけないのが現状です。
しかし、テレワークを導入している企業においては、移動時間や施設を利用することで業務報告書を提出することができるので、直行直帰が可能であり、残業することなく業務を終えることができます。
3-3.コスト削減
テレワークによるコスト削減で分かりやすいのは、通勤手当が発生しないことです。日々の出勤なく業務に従事するので、打ち合わせなどで発生した交通費のみを支払うことになります。また、出勤しないということで、オフィスで使用する物品を減らすことも可能です。
先述した人材確保・離職防止ができた場合には、新たな人材を募集したり、育成のための研修などにかかる費用が不要となります。
3-4.非常時のリスク分散
毎年のように自然災害に遭う日本において、事業の継続が困難となるケースがあります。
地震や大雨などにより建物が倒壊するばかりでなく、機材やデータも同時に失いかねません。
そんな時に、サテライトオフィスでのバックアップやテレワークする従業員によって、通常とまではいかなくても、事業を継続することを可能にすることができます。
3-5.企業イメージの向上
政府が進める事業を率先して行う企業は、求職者に「魅力的な企業」としてアピールすることができます。
例えば、テレワークを離職防止として見るだけでなく、これから就職を希望する場合にも遠隔地や海外からの勤務も可能だということで、企業イメージを向上させることにもひと役買うことができます。
女性の場合には、結婚や出産、育児のために働き方を問われることがあります。社会に出ること、働くことを希望する女性に対しては、長く勤めることができるとアピールすることができます。
4.企業からみるテレワークのデメリット
テレワークを可能にすることでメリットがある反面、デメリットとなる部分があります。企業のデメリットになることは3つあります。
4-1.勤怠管理
テレワークの導入によって、最も問題とされるのは、従業員の勤怠管理です。
出勤する場合には、タイムカードによって出勤と退出を管理することが可能となりますが、在宅勤務をする従業員には、同様のことができないため問題となります。
在宅勤務を行う従業員の出勤・退出、さらには実際に働いていたことを証明する方法を明確にする必要があります。
4-2.セキュリティ問題
働く場所を選ばないことがテレワークのメリットですが、社外で働くことは情報漏えいになる危険性があります。
・組織や人事に関わる総務職
・開発・研究職
・保守義務のある職業
全ての業務がテレワークできるとするのではなく、職種や業種によってはテレワークが不向きだと理解しておくことが必要です。
4-3.情報の共有
会社や職場で顔を合わせることは、ほとんどありませんから情報を共有することが難しくなります。
在宅勤務者とプロジェクトを進めていく場合には、コミュニケーションを積極的に取る必要があるので、タスク管理やコミュニケーションツールの活用を準備しておきましょう。
5.従業員からみるテレワークのメリット
従業員がテレワークすることで得られるメリットは、5つ3つあります。
5-1.通勤時間の削減
自分の通勤時間を長く感じる人は多くいます。総務省統計局の調査によると、ほとんどの都道府県で通勤時間は1時間前後かかることが分かっています。(総務省統計局)
都心であれば、片道2時間も珍しくないといいます。1時間、2時間のほとんどを満員電車で過ごすことは、より長くて無駄な時間だと感じます。
テレワークなら、こうした通勤時間を削減することはできますし、通勤ラッシュの時間帯を避けて利用することもできます。
5-2.職場が遠くても勤務が可能
仕事を選ぶ時、職場が遠い場所にあることで条件から外したり、諦めてしまうことがあります。
テレワークの活用が可能であれば、就職のために引っ越しをせずとも働くことができますし、職場が遠いことを理由に就職先を選択する必要がなくなります。
5-3. ストレスの軽減
働くことは、何らかのストレスを抱えやすい状況を作ります。
・満員電車や渋滞による通勤のストレス
・人間関係のストレス
・時間を拘束されるストレス
こうしたストレスは、生産性を下げたり、モチベーションを下げる原因となるので、解消できる方法としてテレワークを選択できることは従業員にとってメリットとなります。
5-4. 仕事と家庭の両立
会社に出勤することで、従業員は時間を拘束されますが、テレワークを活用することで時間を自分で管理することが可能となります。
テレワークの活用を希望する背景には、介護や育児といった家庭の問題や、自身の病気を理由にあげるケースも少なくありません。
また、女性の社会進出のためには、やはり介護や育児の負担を軽減させることは必須となります。働きながら家庭のことをするというのは、想像以上に大変なことです。
実際にテレワークを導入している企業では、ある程度の条件を設けてテレワークのできる対象者を限定しているところもあります。ほとんどのケースで、介護や育児をしている人をテレワークの対象者としています。
時間を有意義に利用することで、業務を継続していくことができますし、退職する必要も無くなるのです。
5-5. 集中できる環境作り
会社に出勤することで、本来の業務以外のことに時間を取られることがあります。
電話や来客の対応、上司からイレギュラーな仕事を任せられることがあり、業務に集中する環境を作ることができないこともあります。
テレワークでは、こうした別業務で時間を取られることがないので、集中して業務を行うことができます。
6.従業員からみるテレワークのデメリット
従業員にとって、テレワークは良いことばかりですが、やはりデメリットとなることがあります。
6-1.コミュニケーション不足
出勤しないことで、仕事をしやすい環境となりますが、所属する上司や同僚とはコミュニケーション不足となります。
そのため、性格や仕事の能力などを図る手段がないため、会議やプロジェクトでの会話が上手くいかなかったり、任せて良いのか迷ってしまいます。
6-2.時間管理
時間を自分で管理することができる反面、予定通りに時間を進めることができないことがあります。
1日のタイムスケジュールを組み立て、上司に報告するなど、なんらかの方法を考えることが必要となります。
6-3.人事評価が不明確
テレワークで、任された仕事をこなしていても、実際の職場にいないことから、人事評価しずらいことがあります。
人事評価が適切に行われない場合、賞与や昇進などに不利となるため、同僚や後輩と差をつけられることがあります。
6-4.運動不足
自宅に居ながらにして仕事ができるため、運動量が減ってしまいます。
運動不足になると、体重増加だけでなく健康面に影響が現れます。
企業には従業員の健康を守る義務があります。テレワークを活用している従業員の健康を維持する対策も考えていかなくてはいけません。
7.導入事例
では、実際にテレワークを導入している企業をご紹介します。
厚生労働省の「テレワーク総合ポータルサイト」では、多くの企業へのアピールとして、積極的に導入を検討してもらえるように、2つ項目に該当する企業を事例として紹介しています。
・輝くテレワーク賞受賞企業(平成27~令和元年)
・テレワーク宣言企業(平成29~30年)
7-1.アフラック生命保険株式会社
アフラック生命保険株式会社では、全社員が条件や理由なくテレワークを行うことができます。(上司の承諾が必要)
また、全営業支社と販売代理店がWEB会議ができるように整備され、それぞれの働きやすさと生産性向上効果を得ることができています。
勤怠管理については、労務管理ソフトウェアを利用して1日のスケジュール表を作成して報告をすること、そして在席状況の確認も可能としています。
共有のソフトウェアを利用するため、シンクライアント形式のノートパソコンとタブレット端末が全部門の社員に貸与されています。
さらには、モバイルワークを可能とするため、パソコンや端末だけでなく、首都圏を中心にサテライトオフィスを設置していることで、従業員も積極的にテレワークを行うことができます。
7-2.サントリーホールディングス株式会社
サントリーホールディングス株式会社では、テレワーク独自の取り組みではなく、ワークスタイルの革新となる「S流仕事術の創造」にもチャレンジしています。
テレワークの対象者は条件をクリアした社員のみとなり、会社と同等の就業環境とセキュリティの確保ができる場所で行うことが組み込まれています。
勤怠管理については、メールにて就業開始時と終了時に上司に報告をすることが義務付けられています。
7-3.富士ゼロックス東京株式会社
富士ゼロックス東京株式会社では、全ての従業員が働きやすい環境を整備することで、多方面でワーク・ライフ・バランスを目指しています。
在宅勤務の課題でもある、長時間労働・休憩については、テレワークを利用する対象者向けに月6回以上の説明会を行なっています。
内容としては、時間の許す限り働き続けないこと、休憩についても出勤時と同様に時間を設けて休むことを伝えています。
また、限られた時間で成果を出した人を評価することを掲げており、成果面の比重を高くして、正当な人事評価が得られる工夫をしています。
8.テレワークで働いてみた感想
私も実際に、テレワークで仕事をする一人ですが、仕事をする環境の大切さを感じます。
自宅での仕事が続くと、場所を変えたいなという欲求が生まれます。また、一人で仕事に集中できるのは良いのですが、人と話すことが減ってしまい、寂しさを感じることがあります。
そんな時は、気分を変えるためにコワーキングスペースを利用したり、カフェで打ち合わせをしたりと、同じ仕事でも刺激を与えるようにしています。
仕事をする環境を自分で選べる良さは、テレワークの醍醐味です。
所属する企業がテレワークを導入しているのなら、一度試してみる価値があると考えます。
9.まとめ
テレワークのメリットについてご紹介してきました。
導入するためには準備するものがあったり、情報の扱い方などを整備する必要があります。
事例で紹介した企業でもパソコンの貸与があったり、アクセス権限の付与などを明確に示していました。
企業側としては初期費用が発生しますが、従業員の生産性は向上していること、満足度が高いことが企業成長に繋がると考えてみましょう。