ABMは、日本の企業にとっては比較的取り入れやすいマーケティング戦略だと言われています。
しかしながら、「そもそもABMって何?」「どのような効果が得られるのかを知りたい」など、どのようなマーケティングなのかあまりイメージできない人も多いと思います。
そこで今回は、
- ABMとはどのようなものか
- メリットとデメリット
- 具体的なやり方
などについて、ご説明していきます。
1. ABMとは?
ABMはAccount Based Marketing(アカウント・ベースド・マーケティング)の略で、アカウント(企業)へのアプローチを行う、BtoB企業のマーケティング戦略のことです。
通常のリード(見込み顧客)を対象とした主流のマーケティングとは異なるものですが、これまでになかった新しいマーケティング戦略というわけではありません。
むしろ企業に合わせた営業を古くから行っている日本では、ABMの手法は馴染みがあります。
1-1. 通常のマーケティング手法との違い
従来のリード(見込み顧客)にアプローチするマーケティングの場合、STP分析でターゲティングを行います。その際、ターゲットとなるのはセグメント(市場)です。
そして、その市場で商品やサービスを購入してもらうには、まず認知してもらうことから始まります。
一方で、ABMではターゲットとして設定するのはアカウント(企業)です。
データに基づき、成約確度が高そうな企業をターゲットとするため、既に認知をされていることがほとんどです。そのため、ABMでは認知をしてもらうステップがなく、むしろ最初は絞って考えます。そして、そこからいかに接点を持ち、成約や拡散につなげるかという流れになります。
1-2. インサイドセールスとABMの関係
インサイドセールスとは、内勤型営業のことで従来の営業から「訪問」を除いたものです。
電話やメール、オンラインでのミーティングを通して企業とコミュニケーションを取ります。まずはアポイントを取って訪問するというところから始める従来の営業よりも、多くの企業にアプローチできるというメリットがあります。
インサイドセールスでヒアリングした企業の課題や状況はABMの成約確度の高いターゲットを定める際に役立ちます。
つまり、ABMで重要とされているBANTCと呼ばれる情報の取得にインサイドセールスを活用するということです。
BANTCとは、Budget(予算の有無)、Authority(権限の有無)、Needs(需要の有無)、Timing(適切な時期)、Competitor(競合の存在)のこと。
そしてターゲットを絞った後は、インサイドセールスで企業に合わせたアプローチをしていけば良いのです。
1-3. ABMが用いられる理由
これまで、企業に合わせた営業が行われてきた中で、「ABM」という言葉が確立しマーケティング戦略として注目されるようになったのはなぜなのでしょうか。理由は大きく2つあります。
1つは、MA(マーケティングオートメーション)が進化し、購買までの過程をデータで把握しやすくなったということが挙げられます。
そもそもMAとはマーケティングオートメーションという、顧客情報を収集し自動で見込み顧客に最適なアプローチをしてくれるツールのことです。
テクノロジーが進化したことで、より正確で詳細なデータの蓄積が可能になりました。
また、MAだけでなくSFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)が普及したこともあります。それに伴い、LTV(顧客生涯価値)が重視されるようになり、ABMの必要性をさらに高めました。
2つ目は、取引先との関係が変化していることが挙げられます。
既にご説明した通り、ABMの考え方自体は新しいものではなく、企業に合わせた営業というものは行われてきていました。しかし、顧客第一という考え方があり、力関係が生じるケースが多くありました。
そこから徐々に、顧客とパートナーであるという考え方が浸透していき、顧客を選ぶ時代になったため、ABMのような企業をターゲットとしたマーケティング戦略が注目されるようになりました。
なお、これは日本の場合であり、例えばアメリカでは取引先がすでに決まっている営業は馴染みがなく、ABMは比較的新しい考え方として導入され広まっていきました。
2. ABMのメリット・デメリット
既に行っているマーケティング施策がある中で、ABMを取り入れるメリットは何があるのでしょうか?また、予め知っておきたいデメリットはあるのか気になりますよね。
そこで、こちらではABMのメリット・デメリットをそれぞれご紹介していきます。
2-1. ABMのメリット
1. 効率よく成約確度が高い企業にアプローチできる
ターゲットとするのは、既に認知されている企業であることが多いため、まずは知ってもらうという行程を省くことができます。
成約確度の低い企業にまで、時間をかけてアプローチをする必要がない分、効率よくかつ集中して成約確度の高い企業にリソースを集中することができます。
2. ROIの向上につながる
ROI(投資利益率)とは、投資した費用に対してどの程度効果が出ているかを表すものです。
メリットの1つ目と似ていますが、効率よく成約確度の高い企業へアプローチできるため、コストやリソースを集中し、ROIの数値を向上させることができます。
他のマーケティング施策に比べても、ROIが向上する傾向にあることから、ABMは優れたマーケティングである言えます。
3. PDCAを早く回すことができる
ABMはターゲットが少数に限られているため、マーケティング施策の効果を測定しやすいです。そのため、高い精度での分析が可能になります。
さらなる施策を試すステップへもスムーズに進めるため、PDCAを高速で回すことができるというメリットもあります。
4.営業との連携がスムーズになる
次にご紹介するメリットは、マーケティングと営業の連携がスムーズになるということです。
営業は企業と直接話をするため、肌感で成約確度が高そう・低そうという判断をしたり、ノルマのためにLTV(顧客生涯価値)などを考えずに営業をしたりすることがあります。
そのことが良い悪いということではなく、他の部署との連携を考えると共通認識を持ちにくくなってしまうという問題があります。
ABMを行うと、マーケティング部と営業部で顧客志向という共通認識を持つことができます。
ターゲットの洗い出しから成約に至るまでの戦略を協力して考えるため、スムーズに情報共有をすることができます。
5. 他部署や別事業へ展開することができる
ABMを行うと、社内のデータを可視化できるため、アプローチをしたい企業のコネクションが自分の部署ではなかったとしても他の部署であるかどうかということが、簡単に把握できます。
その際に、これまでにどのようなコミュニケーションを誰と取っているかなども分かるので、ゼロから営業をするよりもスムーズに事業を展開していくことができるのです。
2-2. ABMのデメリット
ABMのデメリットとしては、従来の方法から切り替えるのが難しいということが挙げられます。
日本では、古くから顧客優先の思想があり、企業に合わせた営業を行ってきてはいますが、ABMの考え方をいざ現場に落とし込もうとすると、時間がかかります。
マーケティングと営業で連携して、洗い出したターゲットに対して的確な営業をする必要があるのですが、ABMの考え方ではない営業を行う人が出てきてしまうという可能性があるのです。
2つ目は、新規顧客へアプローチしたい場合には不向きというデメリットです。
基本的には既に認知がある状態から、効果的な戦略を考えてアプローチをしていくため、新規顧客の場合はあまり効果が出ないことが多いです。また、実績のない新規顧客の場合、LTVを計測するのが難しいことも挙げられます。
3. ABMの具体的なやり方
ABMの効果やメリットが理解できたところで、次は具体的なやり方についてご紹介します。
こちらでは5つのステップに分けてご説明していきます。
3-1. ABMを行うのかどうか検討し、プロジェクトを立ち上げる
これまで主にABMのメリットについてご紹介してきましたが、企業によってABMの効果が得られるかどうかは異なります。
本当に必要があるのかどうかを社内で検討するところから始めましょう。
事業目標に従って、ABMの戦略を考え売り上げの向上を見込めるのかどうかを考えます。
そして、ABMを実施することを決めた際には、営業部とマーケティング部を中心にプロジェクトを立ち上げます。
マーケティングには、データ分析やツールが得意な人物、またさまざまなマーケティング施策の知識や経験がある人物。営業には、決裁権を持つ人物を含む多くの人や、複雑な組織をまとめられる人物が望ましいでしょう。
また、営業部とマーケティング部以外でも関係部署の人物がいる場合は、アサインするのがおすすめです。
3-2. ターゲットとなるアカウントを選定する
次に、ターゲットとなるアカウントを決めていきます。
まずは、広くターゲットになりそうな企業をリスト化していきます。そしてその後、重要度の高い企業を絞り込んでいきます。
その際に考えるべきことは、
- 高い利益が見込めるかどうか
- 今後大きな成長を見込めるかどうか
- 継続した取引が可能かどうか
- 全社的に見ても重要性が高い企業かどうか
ということです。
自社にとって長期的な利益が見込める、比較的規模の大きい企業をターゲットとして設定します。
3-3. キーパーソンを洗い出し、連絡手段を検討する
ターゲットが定まったら、次はキーパーソンの洗い出しを行います。企業には意思決定をする際に、裁量を持った重要な人物がいるはずです。
自社のデータベースや他から仕入れた情報などを用いて特定します。
そして、そのキーパーソンとどのように連絡を取るのかを検討します。
既に連絡先を持っていれば良いですが、まだ持っていない場合は電話で連絡するのか、誰かに紹介してもらうのかなど、アプローチの方法を考えます。
3-4. アプローチの方法を決定し、施策を実施する
誰にコンタクトを取るべきかが把握出来たら、次はターゲットにはどのような課題があるかを考えます。
そして、企業の持つ課題に対して自社の製品やサービスがどのようなソリューションを与えられるのかを明確にします。
この時、ターゲット企業に合わせた(パーソナライズした)ソリューションの打ち出し方を考えるのが良いと言えます。
営業のシナリオや、打ち出す施策についても練っておきましょう。
3-5. 効果を測定する
営業や施策を実施する段階に入ったら、その都度データを収集して効果を測定します。ABMにおいて最も重要であると言える部分です。
ここの施策のフィードバックに加え、キーパーソンへの接触可否や利益の変動などを確認して、次の施策に活かします。
このサイクルを回していくと、より重要な企業が見えきたり、各ターゲット企業に対してどのような施策が有効か分かってきたりします。
施策を実施して終わりではなく、必ず効果を測定してサイクルを回すことが重要です。
4. ABMにおすすめのツール
ABMのやり方をご説明してきましたが、データを収集したり管理したりするにはツールの使用が不可欠です。
ABMツールや関連するツールはたくさんあり、またできることも多岐にわたります。そのため、こちらでは6つピックアップして、おすすめのツールを簡単にご紹介します。
4-1. MA(Marketing Automation)
MAは顧客の情報を収集・蓄積し、マーケティング施策を分析、見込み顧客を育てることができるマーケティングを自動化するツールです。
MAは個人を想定するものですが、行動データなどから企業についての情報を得ることもできるため、ABMに活用できます。
4-2. CRM(Customer Relationship Management)
「顧客関係管理」と直訳できるように、顧客情報とともにどのようなアプローチをしているかなどの情報が管理できるツールです。
個人顧客の情報であっても企業に紐づけて管理できるため、企業との接触状況を把握するために役立てることができます。
4-3. 企業データベース
企業データベースとはその名の通り、企業情報のデータベースです。
企業の情報とは具体的に、代表名、従業員数、業務内容、規模、業績、倒産リスクなどのことです。リスクのある企業を避けるために役立てることもできます。
他のツールとの併用で、重要な企業の洗い出しをすることができます。
4-4. FORCAS
企業の名寄せを自動で行ってくれ、成約確度が高い企業をリスト化してくれるツールです。
140万社以上の膨大な企業データを所有しており、それらを自社の持つデータと併せ分析することができます。
こちらも他のツールと連携させることによって、より効果的な施策を立てることができます。
4-5. ユーソナー(uSonar)
国内拠点網羅率99.7%を誇るマスターデータを基に、顧客データの名寄せや社内で整理できていない顧客データを統合することができるツールです。
MA、CRM・SFA、名刺管理などのツールと連携させることで、データを一元管理することが可能です。
4-6. Marketo
アドビが提供する、全世界5000社以上に導入されているツールです。
パーソナライズされたコンテンツの提供を、適したタイミングで行うことができることから顧客との関係構築に役立てることができます。
顧客とのエンゲージメントに基づいているため、対個人・対企業であるかは関係なく利用することができます。
5. ABMの成功事例
最後に、ABMを実施し上手くいった企業の事例をいくつか見てみましょう。
5-1. ABMの成功事例①PayPay株式会社
PayPay株式会社は、電子決済サービスを提供している企業です。
営業先の検索や情報収集を手作業で行っており、
- かなりの工数がかかってしまうこと
- 収集した情報をうまく活用できていない
という課題がありました。
そこで、「ユーソナー(uSonar)」を導入しABMを行ったことで、企業に紐づけて情報管理ができるようになり傾向分析ができるようになりました。
さらには、日本最大のデータベースを利用できることで、市場を広く見ることができ、開拓状況を把握することができるようになりました。
5-2. ABMの成功事例②株式会社LIG
株式会社LIGは、Webサイト制作やコンテンツ制作、Webクリエイタースクール運営などを行う、デジタルクリエイティブで良い世界をつくるという理念を掲げた企業です。
新規営業のアポイントを取る際に時間がかかってしまう、という課題がありました。電話をしてアポイントを取れる割合も人によってばらつきがあり、質の高い顧客リストの作成ができていませんでした。
そこで、もともと使用していたMAツール「BowNow」の新機能であったABMテンプレートを活用したところ、アポイントを取るまでの時間が半分ほどに短縮されました。
ABMテンプレートとは、各顧客のアクションによってステータスを自動的に更新していくものです。顧客リストの作成時間短縮とともに、見込みのありそうな顧客に絞ることができるため、効率的にアプローチできるようになりました。
5-3. ABMの成功事例③株式会社村田製作所
株式会社村田製作所は、海外売上比率が90%を超えるグローバルな電子部品メーカーです。
電子部品は、携帯電話から自動車まで幅広く使用されていることから、取り扱う製品ラインナップを適切な企業へ売り込む必要がありました。
そこで株式会社村田製作所は、「Marketo」を導入。「高付加価値商品の販売促進」と「コアな顧客に対する営業支援」をするためにABMキャンペーンに取り組みました。
営業が集めた名刺をデータ化し、ターゲットを決めます。次に、ターゲットが興味を引かれそうなコンテンツをWebサイト上にアップし、そのURLをターゲットにメールで配信。そうすることにより高いクリック率を得ることに成功しました。
6. BtoBマーケティングであるABMを検討してみよう!
ABMは、企業に合わせたアプローチを行うBtoBマーケティング戦略のこと。テクノロジーの進化により、高精度でかつ利用しやすい形でデータ収集・蓄積・分析することが可能になりました。
それにより、ABMは注目さるようになり、ROIの向上に効果的であることが分かりました。
ただし、ABMの効果を期待できないケースもあります。ABMのやり方でもご説明しましたが、自社にとってやる必要があるものなのか、検討を必ず行うようするのが良いです。
成果を上げられるようなツールをうまく活用し、ぜひABMを行ってみてください。