マーケティングには、さまざまな種類の手法が存在します。
その中でも近年、再注目を受けているのが「ファンマーケティング」という手法。ファンマーケティングは古くからある方法ですが、SNSやメディアの媒体力の向上や、インフルエンサーと呼ばれる人の登場によって、再びその効果の高さが注目されています。
実際、ファンマーケティングには色々な強みがあり、うまく利用すれば少数の顧客から大きな売り上げを作ることが可能です。
この記事では、ファンマーケティングの基礎知識について徹底解説していきます。
- 新しいマーケティング施策を取り入れたい人
- 既存の顧客からさらに大きな利益を生みたい人
上記のような人は、ぜひ参考にしてみてください。
1. ファンマーケティングとは何か
ファンマーケティングとはその名の通り、ファンをメインターゲットとしたマーケティング手法で、細かく分けると以下のようなものがあります。
- ファンを増やす
- ファンからフィードバックをもらう
- 既存ファンへの企画を展開する
「ファン」という言葉の定義はさまざまですが、ここでは「会社の商品・サービスのコンセプトに心から共感し、熱狂している」としましょう。ファンと優良顧客の差は熱狂度です。
「この会社の製品じゃないと嫌だ!」
「ここのサービスが最高!」
このような、自社サービスに対する熱い気持ちを持った顧客を中心に、ファンマーケティングは展開されます。
2. ファンマーケティングが生まれた背景
ファンマーケティングが注目された背景には、顧客の性質の変化があります。
以前のマーケティングは、「より大勢の人に、より多く広告を見てもらう」という考え方が重要でした。要は、会社独自の色や画期性よりも、いかに宣伝に予算・労力をかけられるかがカギだったというわけです。
ですが、この流れはインターネットやSNSの爆発的な普及によって変わります。多くの情報に手軽にアクセスできるようになった今、顧客はさまざまな製品を比較検討し、自分の目的に合った製品をじっくりと吟味するようになりました。
このような状況で、マーケティングは「一部の人に、より深く」という考え方が力を持ちます。現代はモノが溢れかえっているので、一部の商品が市場を独占するのはとても難しいです。
この「一部の人に、より深く」という考え方は、まさにファンマーケティングの本質と合致していますね。
3. ファンマーケティングの前提:パレートの法則
「少数の人により深く、って言っても、顧客を増やした方が簡単に利益を上げられそうじゃない?」と思った人もいるのではないでしょうか。しかし、実は売り上げの構造はそんなに単純なものではないのです。
「パレートの法則」というビジネス用語があります。パレートの法則は、「上位20%の要素が、結果の80%に起因している」というもの。要するに、売り上げの80%は20%の顧客により生み出されているということです。
この法則からすると、ただ人数を増やせば売り上げが作れる、というわけではなさそうです。むしろ、上位20%の顧客をいかに生み出し、活かせるかという点が重要に見えますね。
4. ファンマーケティングのメリット
ファンマーケティングのメリットはさまざまですが、ここでは代表的なものを3つ紹介します。
- 情報拡散力のアップ
- 商品の画期性が必要なくなる
- ファンから新しい顧客が生まれる
順番に見ていきましょう。
4-1. 情報拡散力のアップ
ファンの存在により、情報の拡散力が大幅にアップします。
熱狂的なファンは、応援している会社やサービスを良質なものだと確信しています。そして、人間は自分がいいなと感じたことや情報は、周りの人に広めたり、伝えたりしたくなるもの。このようなメカニズムにより、企業が頼まなくても、商品の情報が勝手に広まっていくのです。
いわば、ファンが無料の宣伝部隊になってくれるわけです。
また、ファンは基本的に商品のネガティブな情報は発信しません。自分が好きなものの悪い部分を発信することは、自分を否定することに繋がってしまうからです。
このように、熱狂度の高い顧客は、商品の宣伝効果を高める重要な役割を担っています。
4-2. 商品の画期性が必要なくなる
モノが溢れかえる現代において、誰も見たことのない商品を生み出すのは至難の業です。
そのため、注目すべきなのは「何を売るか?」よりも「どう売るか?」という部分。なぜなら、顧客は商品だけでなく、企業のストーリーや意味付けにもお金を払っているからです。
たとえば、プロ棋士の藤井聡太さんが対局中に食べたモノが、対局後あっという間に完売した…という話を聞いたことはないでしょうか。これは、商品の機能自体は変わりないのに、「藤井聡太が食べたご飯」という意味がラベリングされたことで、多くの人を惹きつけた例です。
熱狂的なファンは、商品の質だけでなく、企業のストーリーや社長の思い、商品のコンセプトに対しても共感していることが多いです。そう考えると、既存商品も見せ方を変えるだけで売り上げが変わる可能性がありますね。
4-3. ファンから新しい顧客が生まれる
ファンからは新しい顧客が生まれやすいというところも、ファンマーケティングの強みの1つ。
ファンは商品や企業の魅力を積極的に発信してくれるので、潜在顧客を引き込みやすいのです。
みなさんも、何か新しいモノを買うときに、ネットで商品のレビューや口コミを確認する人が多いのではないでしょうか。商品を比較検討する段階で、ファンが発信した情報は大きな効果を生み出します。
5. ファンマーケティングの注意点
ファンマーケティングをするにあたり、注意しておきたいポイントが2つあります。
- 短期的な成果は期待できない
- 一気にアンチが増える可能性も
5-1. 短期的な成果は期待できない
ファンマーケティングには即効性がありません。長い目で見て、マーケティング施策を実行していく必要があります。
当然ですが、特定の商品やサービスをたった1日で熱狂的に好きになることはありませんよね。長い期間をかけてじっくりと魅力へのめり込んでいくのが普通です。
新規顧客の獲得だけでなく、既存ファンへのアプローチも同様。先ほどの藤井聡太棋士の例のような、いわゆる「バズる」という例外もありますが、ほとんどの場合はゆっくりと効果が高まっていくものです。
5-2. 一気にアンチが増える可能性も
熱狂的なアイドルファンが一転、ストーカーになってしまうことがあります。「裏切られた」と感じると、強烈な思いは一気にネガティブな方向へ振り切れてしまいます。
ファンマーケティングにおいても、同様の事態が想定できます。既存ファンのことを大切にしないと、「自分たちはこれだけの思いを持っているのに、企業の対応からは全く思いやりを感じられない」と思われてしまい、一瞬でアンチ化してしまうことも。
人間は、ポジティブなものよりネガティブなものを注視してしまう性質があります。そのため、ファンによるネガティブな口コミは、良い評判を凌駕する威力を持っています。
とはいえ、既存ファンの思いに丁寧に応えるように心がけていれば、このような事態は避けられるもの。利益に目を眩ませることなく、顧客のためにビジネスを展開していることを意識していきましょう。
6. ファンマーケティングを成功させるポイント
ファンマーケティングを成功させるポイントについて紹介します。
- ターゲットユーザーを大胆に絞り込む
- ファンのための特別な企画を用意
- さまざまな媒体から顧客との接点を作る
- ファンの量・質共に重視する
6-1. ターゲットユーザーを大胆に絞り込む
ファンマーケティングにおいては、ターゲットユーザーを思い切り絞りましょう。
前述した通り、ファンマーケティングの基本的な考え方は「一部の人に、より深く」です。万人ウケを目指す必要はないので、最初からターゲットも絞り込んでしまうのが効果的でしょう。
また、ターゲット設定は「人物像が明確にイメージできるくらい」まで作り込みましょう。年齢や性別などの基本情報だけでなく、趣味や休みの過ごし方、価値観などのパーソナルな部分まで作り込むことで、より心に刺さりやすい施策を考案できます。
6-2. ファンのための特別な企画を用意
熱狂度の強い顧客には、特別な企画やサービスを提供してみましょう。
優良な顧客ほど手の込んだサービスやサポートを提供するのは、ビジネスの基本です。ファンの思いにしっかりと応えることで、初めて既存顧客を維持できるようになります。
たとえば、以下のようなサービスはいかがでしょうか。
- 商品を一定期間利用し続けてくれた人に、非売商品を特別プレゼント
- ファンのオンラインコミュニティーを作る
特に、ファン同士の繋がりを提供するのは、顧客維持にとても効果的です。ぜひ検討してみてください。
6-3. さまざまな媒体から顧客との接点を作る
情報発信をするプラットフォームを一つに絞らず、さまざまなものを利用しましょう。
なぜなら、顧客が利用するプラットフォームは一つだけではないからです。ツイッターを使う人、インスタグラムを使う人、メディアで情報収集をする人など、さまざまな人がいます。
また、複数のツールを横断する人も多いでしょう。たとえば「SNSで商品を知る」→「メディアで詳しい情報を確認」→「Amazonのレビューを確認」→「購入」のように、複数の情報源にアプローチするのは全く珍しい話ではありません。
SNS
SNSの魅力は、発信の手軽さと拡散性です。
特に拡散性の面は、他の発信媒体とは比になりません。拡散性はファンマーケティングに欠かせない要素なので、SNSは全企業が利用するべきプラットフォームだといえます。
SNSは、特性によって使うものを選びます。基本的にはツイッターがおすすめですが、ビジュアルや世界観、イメージを重視するサービスはインスタグラムとの相性が良いです。自分のサービスに合ったSNSから始め、徐々に使うものを増やしていきましょう。
オウンドメディア
オウンドメディアは、検索流入のユーザーを捕まえ、信頼感を築くのに効果的です。
ビジネスの形態に限らず、Webからの売り上げは大きいもの。特に、検索から商品にたどり着くユーザーはかなり多いです。そのため、メディアを使った継続的な発信活動の影響力は計り知れません。
メディア運営には、SEO対策やWeb ライティングなどのスキルも必要ですが、長い目で見ればチャレンジする価値は十分あります。
動画・音声配信
動画・音声配信は、コストはやや高めではあるものの、商品の魅力をダイレクトに伝えられるという強みがあります。
YouTubeを中心とした動画市場の盛り上がりはもちろんですが、今後は音声メディア市場が爆発的に伸びることが予想されます。音声はコストも大きくなく始めやすいので、とてもおすすめな分野です。
ブームが来る前からコツコツと情報発信をしておくことで、未来に大きな芽が出ることが期待できます。
6-4. ファンの質・量共に重視する
ファンは質、量共に重視するようにしましょう。
質は「コミットメントの強さ」です。十分な熱狂度を持つ人に対しても、まだまだできることは残っているはずです。サービスを突き詰めて、飽きられないように注意してください。
質と量は両方尖らせるのではなく、バランスが大切です。まずは一定量のファンを集め、彼らの熱狂度を高めていくというイメージを持っておきましょう。
7. ファンマーケティングの成功事例
ファンマーケティングの成功事例を見てみましょう。どれも大企業ばかりですが、中小企業にとっても成功のヒントになるものが見つかるはずです。
- スターバックス
- ヤッホーブルーイング
- スノーピーク
7-1. スターバックス
世界的なコーヒーチェーンである「スターバックス」。学生からビジネスマン、年配の人にまで、幅広い層に支持されている企業です。
そんなスターバックスは、テレビCMを一切利用していないのをご存知でしょうか。
なぜテレビCMを使わなくても大きな売上を作れるのか。それは間違いなく、スタバの根強いファンによる情報拡散に秘密があります。
スターバックスは季節やトレンドに合わせて、その都度フォトジェニックな商品をリリースしています。その情報はファンによりSNSであっという間に拡散され、より多くの人の目に届いていきます。
また、My Starbucks Ideaというキャンペーンでは、ファンからの商品アイデアを実際に採用し、製品化するという取り組みが行われています。
スターバックスほど、ファンを大切にしたマーケティングを行っている企業はないといってもいいでしょう。
7-2. ヤッホーブルーイング
ヤッホーブルーイングは、ファンを中心としたマーケティングを行っている、クラフトビール専門の企業です。
ヤッホーブルーイングには、倒産危機を経験した過去があります。社長の井手さんは企業存続のために、既存のファンを大切にする施策を選び、顧客との密なコミュニケーションを続けました。
その結果、見事ショッピングサイトの売り上げが回復。ファンマーケティングによって経営危機を脱した、先駆的な例であるといえます。
7-3. スノーピーク
アウトドア専門企業である「スノーピーク」も、キャンプブームが過ぎ去った際に経営危機を経験しています。
スノーピークはその時、商品の値段を下げることなく経営危機からの脱出を成功させました。成功のカギはもちろん、ファンマーケティングにあります。
- 会員限定のキャンプイベント
- アウトドアコミュニティの形成
- スタッフとファンの積極的な交流
上記のような、ファンに対しての商品以外の価値提供を重視し、スノーピークは生き残りました。
8. まとめ
ここまで、ファンマーケティングの基礎知識について解説してきました。
SNSやインフルエンサーなどの動きを見ていると、ファンマーケティングの重要性はこれからも高まり続けることが予測されます。
規模が大きくなりつつある市場で成果を出すには、なるべく早く参入することがポイント。この記事を読んでファンマーケティングに興味を持った人は、ぜひ一日でも早く施策をスタートしてみてください。