以前に比べ、人々を取り巻く環境は大きく変化し、そのことはマーケティングにも多大な影響を与えています。少子高齢化や情報過多などの要因によって、従来の集客手法が通用しなくなったのです。
そこで、新しい手法として注目されるようになったのがインバウンドマーケティングです。
この記事では、インバウンドマーケティングの具体的な内容や従来の手法との違い、あるいは実施の際の注意点などについて解説していきます。
1. インバウンドマーケティングとは?アウトバウンドマーケティングとの違い
インバウンドマーケティングの対義語となる言葉にアウトバウンドマーケティングがあります。
古くから使われてきた集客手法で、売り手側から消費者に向けて積極的にアプローチをかけていくのが特徴です。
テレビでCMを流したり、新聞に折り込みチラシを入れたり、新商品の展示会を開催したりするのがそれにあたります。
また、片っ端から電話をかけて、商材の売り込みをするのもアウトバウンドマーケティングの一種です。
どれだけ頻繁に消費者の目にとまるかが成功の第一歩であり、基本的にアプローチの対象となっているのは不特定多数の人間です。
一方、インバウンドマーケティングの場合は消費者に対して自らは積極的にアプローチしようとはしません。
消費者にこちらが流している情報の存在を自分で見付けてもらおうというのが基本スタイルです。
たとえば、ホームページやSNSなどで情報を発信し、消費者が検索などによってそこにたどり着いて初めて存在を知るというのがその典型例です。
昔なら、仮に、このような手法で宣伝してもその存在を誰も知ることなく終わってしまうだけでした。つまり、インターネットの普及などによって、消費者が情報を探す手段が発達したからこそ可能になった手法だといえるわけです。
ちなみに、外国人旅行客が日本に訪れることをインバウンドといい、そうした顧客を対象としたマーケティングをインバウンドマーケティングという場合があります。
しかし、ここでいうインバウンドマーケティングとは別物なので、くれぐれも混同しないようにしましょう。
2. アウトバウンドマーケティングの限界とインバウンドマーケティングが注目されている背景
そもそも、なぜインバウンドマーケティングが注目されるようになったかといえば、その背景にあるのは情報量の増大です。
数十年前までは自分の身の回りのこと以外で情報を収集しようと思えば、テレビ・新聞・雑誌などに頼るしかありませんでした。そのため、売り手側もそれらのメディアを利用してアウトバウンドマーケティングを展開すれば、一定の効果が期待できたわけです。
ところが、インターネットの発達によって人々が受け取ることのできる情報は爆発的に増えてきています。
10年間で情報流通量が数十倍になったという話もあるぐらいです。
しかし、消費者個人が受け取れる情報量には限界があり、そんな中で、従来のアウトバウンドマーケティングを安易に行っても情報の海の中に埋もれてしまうだけです。
しかも、技術の進歩により、現代では自分の欲しい情報だけを選べるようになっています。
たとえば、いくらテレビでCMを大量に流したとしても、録画とスキップ機能を併用することでCM を飛ばされてしまうので、単純な宣伝量だけでは勝負できない時代になってきているのです。
また、情報を取捨選択できるようになったために、多くの人は一方的に押し付けられる情報を不快に感じるようになってきています。
実際、セールの電話がかかってきても騙される可能性を考えてネガティブな気持ちになったり、自宅のポストにチラシが大量に入っているのを見てうんざりしたりというのは多くの人が感じているはずです。
以上のような状況の中で、消費者が自ら進んで情報に触れてこそ購買意欲を高めることができるのだという認識が広まり、インバウンドマーケティングの手法が注目されるようになったというわけです。
3. インバウンドマーケティングを実際に行う際の基本的な手順
インバウンドマーケティングの具体的な方法はさまざまですが、基本的な手順は、
・「目的の明確化」
・「ペルソナの設定」
・「シナリオの設計」
・「コンテンツの作成」
・「コンテンツの配信」
・「効果検証」
という6つのプロセスにわけることができます。
3-1 目的の明確化
商品の売上アップや自社ブランドの認知度向上などといった具体的な目標のことです。
目標が決まれば次にペルソナを設定します。ペルソナというのは特定のサービスや商品に対する典型的なユーザー像のことで、どういった人物ならそれらを求めるかを考えながら、年齢・性別・年収・趣味・価値観といった具合に、より具体性のある人物像を設定していくのです。
3-2 ペルソナ設定
そして、ペルソナを使ってどういう道筋でサービスや商品を認知して利用するのかを検証し、シナリオを作っていきます。
たとえば、「夏バテで悩んでいてその解消方法を求めている人物」がペルソナだとします。
すると、
「ネットで夏バテについて検索する」
→「自社のホームページで夏バテに関するお役立ち記事を見付ける」
→「記事の内容に感心して、自社に親しみを覚える」
→「夏バテ解消を謳った自社商品の広告を読み、購入を決意する」
といった流れがシナリオとなるわけです。
もちろん、これは単純化したものであり、実際には成功事例やお客様の声など、もっとさまざまな要素を盛り込んでいくことになります。
3-3 コンテンツの配信
続いて、そのシナリオに基づいてコンテンツを作成し、問題がなければいよいよ配信です。
配信をしたあとは実績データやユーザーの声などを集めて、効果の度合いを検証します。
もし、効果が不十分という結果がでれば、何が悪かったのかを仮説を立てて再検証することが大切です。
4. インバウンドマーケティングのメリットとデメリット
4-1 メリット
インバウンドマーケティングには自分で情報を選んでもらうことで消費者に安心感や好印象を抱かせやすいというメリットがあります。
また、テレビのCMや新聞のチラシなどと比べて、低コストなのも魅力的です。
さらに、ネットが主な宣伝媒体になっているので、商品やサービスの評判がよければ拡散効果も期待できます。
4-2 デメリット
ただ、インバウンドマーケティングにはデメリットも存在します。たとえば、インバウンドマーケティングが完全に社会に浸透しているとはいえないので、具体的なやり方がわからない人が多いという点です。
それに、実際に行うとなると、情報の更新を随時しなくてはならないので担当者が必要となってきます。
しかし、これらの問題は企業の努力次第で十分に改善が可能です。
それよりも、より根本的な問題として挙げられるのが即効性の低さです。
インバウンドマーケティングは受け身の集客手法となるので、宣伝効果が出るまでにどうしても時間がかかってしまいます。
そのため、明日の特売セールの告知などといった、短期間で認知度を高める必要のある宣伝には向いていません。
こうしたケースにおいてはアウトバウンドマーケティングの手法を用いたほうが効果的です。
5. インバウンド・マーケティングの成功例
インバウンドマーケティングの理屈はわかっても、実感としてピンとこない人もいるかもしれません。そこで、これからインバウンドマーケティングの導入について検討したいという人のために、それを用いて成功した事例を2つ紹介します。
5-1 事例1.見込み客を掘り起こすために!ネットを駆使した多角的なアプローチ
自前でシステムを用意する必要がなく、しかも、低コストで導入ができるクラウドシステムはある程度以上の規模の企業にとってはなくてはならない存在となっています。
ただ、実際にどのようなことができるのかは素人にはわかりづらい面があります。
そこで、クラウド会計ソフトやクラウド給与計算ソフトなどを提供しているある企業は、自社サイトに単なる製品紹介だけでなく、動画やイラストによる導入事例の説明を盛り込むといった工夫を始めます。
同時に、公式ブログや代表者ブログ、twitterやFacebook、公式YouTubeなどといったものを駆使し、見込み客の興味を引き付ける情報を流し続けました。
さらに、個人事業者を支援する目的で、経営のヒントや有益な情報を提供するサイトも立ち上げたのです。その結果、多くの見込み客を引き付けることに成功し、事業のさらなる飛躍へとつなげていっています。
5-2 事例2.Facebookの機能を駆使して自社の鞄の魅力をアピール
バックや旅行鞄などを製造しているある企業ではFacebookの機能を駆使し、自社商品の魅力的な写真を多数掲載しています。
しかも、それだけに留まらず、公式サイトと連動することで、各鞄の詳しい製品情報や製造される過程が見られるようになっているのです。
その他にも、鞄の魅力やブランドとしての世界観が伝わるような工夫が施され、多くのファンを集めています。
投稿に対する「いいね!」の数も多く、企業用Facebookの年間ランキングは常に上位をキープしているなど、評判は上々です。
6. インバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングを上手に使い分けよう!
インバウンドマーケティングは今後さらなる発展が期待されている新しいタイプの集客方法です。
大量のCMや広告などを投入する必要がないので、コストをかけずに宣伝ができるのも魅力的です。
ただ、即効性に欠けるなど、欠点があるのも確かです。
この記事などを参考にしながら、インバウンドマーケティングの特徴をよく理解し、アウトバウンドマーケティングと上手に使い分けることで、より効果的な集客を目指していきましょう。